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                          マリンエンジンの点検について
     2006年 8月 30日
記事: ミズノマリン 水野 茂
この記事は2006年5月ボート月刊誌に掲載された情報です。

◆マリンエンジンの点検について考える

大型船に搭載が義務付けられている救命艇の検査基準が、今秋より世界的に改定される。
現行のルールでは、本船の船長が救命艇の安全性を確認すれば特に検査は必要としなかった。
ところが昨今、あまり報道はされてはいないが救命艇にまつわる事故が後をたたない状況下にあるようだ。
中でもエンジンに関するトラブルも多いのが現状のようである。
そうならないためにも、今回はマリンエンジンの点検について考えたい。

緊急時に救命艇を降下するダビットが作動しないとか、降下はしたものの離脱装置のトラブルで着水後もフックが外れないとか、離脱はしたもののエンジンが始動しないだとか・・・ 乗組員自らの人命を守る船ですら自主整備となると疎かになるのが現状のようだ。

救命艇の検査基準の法改正後は、救命艇メーカーの整備資格を有した検査員が年に1度本船に立ち入り、救命艇の安全性を確認するようになる。
この検査にパスしなければ本船の出航が許可されないといった厳しい内容の法改正だ。
大型貨物船の出航が1日遅れると数千万円の損害が発生する。
乗客2000人を乗せてクルーズする大型客船の出航が中止になると数億円のペナルティーが発生する。
これまで日常的な点検項目から外していた船長も、今後はメインエンジンに匹敵するような整備を救命艇に施すのではないだろうか。
 
私たちのプレジャーボートの場合、点検に対する意識はいかがなものだろうか。
確かに法定の3年、6年検査はありますが検査の内容は実に簡易なものだ。
法定安全備品の数と有効期限は厳しく検査されるが、これらのアイテムは緊急時に威力を発揮する道具で、船そのものが安全に航行するための検査項目ではない。
灯火設備やホーンも重要な装置ではありますが直接航行に関与するものではなく、重大な海難事故につながるエンジン、マリンギアー、ドライブに関してはニュートラルセイフティー機能を伴う始動と、正常な停止が良好であればすんなりと船検にパスしてしまうのだ。

2006年7月よりIMO規定の改定で年次点検が義務付けられる本船搭載の救命艇。 自主検査に委ねていた結果、事故が多発しついに世界的に法律が改定される。


自主的な点検と整備の意識を持とう
海難、遭難事故のリスクを考慮すると、本来であればプレジャーボートのエンジンと推進装置には、本来もっと厳しい法的な整備規制があっても不思議ではない。
もちろん乗客の輸送を目的とした客船に関しては検査のインターバルも短く、検査項目も厳しくなっているが、ことプレジャーボートに関しては野放しなのが現状なのだ。
 
乗り物に関わる検査的な法律について考えてみよう。
空を飛ぶ飛行機やヘリコプターは航空法に基づいて、年式と航行時間の二元管理で検査項目と交換部品が決められている。
上空で機械的なトラブルが発生すると乗組員の危機は当然のことながら、街中に墜落でもすれば第三者に及ぼす被害は重大なものになる。
「空の乗り物は安全だ」と言われる陰には、他人に及ぼす被害を食い止めるための政策が、航空機所有者の意思には関係なく策定されているから安全性を高めることが出来るのだ。
 
自動車の場合は道路交通法に基づいて車検がある。
自動車の安全運行と強制賠償保険の加入徹底が目的で、定着した法定点検と言えるだろう。
2年に1度プロが点検し、不良箇所を修理することで重大な故障や事故を回避することが出来るのだ。
 
さて、プレジャーボートに話しを戻すが、検査項目にエンジンや推進器、操舵装置に法定の縛りがない以上、船舶所有者が自主的に点検や整備を行う必要があることをまずはご確認いただきたい。
時間と費用が発生して楽しさが伴わない事項に関して、人は「不愉快」と認識してしまう傾向にあるようだ。
好きでもなく、何の利害関係もない人から食事やお酒の席に誘われても行きたくないのと同じ感覚だ。
船の点検や整備を業者に依頼しても何の楽しみもないが、安全性と財産の確保のために必要なことなのだ。
船舶は航空機や自動車以上に苛酷な状況下で使用され、点検整備を怠ると必ず故障や事故が発生する乗り物であることを覚えておきたい。

ドイツMAN社のV型8気筒モデル。
アプリケーションによっては800Hpで1基1500万円をはるかに超える高級高性能マリンエンジンだ。
点検、整備なしでベストコンディションを保つのは不可能といえる。


点検、整備の実施で結果的に安くつく

物事を判断するのにいろんな基準があるが、人は「善悪」と「損得」から判断しているケースが多いと言われている。
傷害事件や盗難は世界共通で明らかに「悪」に属する。
最近スピード違反に関する問題発言もあったが社会的にルール違反は「悪」である。
酒、タバコは体にとっては「悪」ですが、モラルを守れば合法の「善」となり大人の間では大切なコミニュケーションツールですらある。
プレジャーボートは船検にパスしていれば何の問題もなく大手を振って航行が出来るので、余分な整備はしなくても「善」の域でボーティングを楽しむことができる。

ではもうひとつの判断基準「損得」で考えてみよう。
株や相場に投資して勝てば「得」、負ければ「損」は明確である。
ネットで検索したレストランに行き、価格、店の雰囲気、タッフの応対、味の四拍子が人に紹介したいくらい満足できれば「得」したと感じるし、その逆だと「損」した気分になる。
船の検査費用が思いのほか安いと、その場は「得」した錯覚に陥るが、自主点検の鉄則を忘れるとこの夏にでも大きな故障を招く恐れがあるのだ。
 
点検でエンジンからの水漏れ、オイル漏れに気がつき、簡易な修理で焼け付きは免れられる。
エンジンオイルや燃料フィルターの定期交換で、機械の寿命は随分長くなるものなのだ。
整備を嫌うオーナーほど製造者責任や販売者責任を問うが、実は使用者責任なのだ。
1馬力につき¥15,000〜¥20,000マリンエンジン1基の相場価格なのだ。
あなたのエンジンは何馬力だろうか?
海上で使用する高額な機械装置がメンテナンスフリーはありえないことを船長として自覚をもち、「大損」をしないためにも自主定期点検と整備を心がけるべきだろう。

冷却系統の整備不良が原因でバルブの脱落やピストン&シリンダーライナーに損傷が発生する。
脱着費用を含めると修理費用は1馬力10000円を超えることもある。


点検、整備、修理の違いを認識しよう
シーズン前点検をしたのに調子が悪いとか、整備済みの中古艇を購入したのに故障したとか、メンテナンス用語を適当に使うと話がややこしくなりがちだ。
 
まず点検とは、現時点での運行においてエンジンが問題なく稼動しているかどうか、近い将来、故障につながるような不良箇所や初期トラブルがないかどうかを確認する作業をいう。
簡易な内容でいえば船長が出航前に行う始業点検などがこれに該当し、安全の確認とトラブルの早期発見を目的とする。
 
次に整備は、ベストなエンジンコンデジションを保つために行う作業を言い、部品の交換や、部分的な分解を伴う清掃などを意味する。
定期整備や保守整備がこれにあたり、エンジンコンディションが良くても200時間でオイル交換をするような作業が代表的な整備といえるだろう。
適切な整備の実施をするかしないかでエンジンの寿命は大きく変わるものなのだ。
 
最後に修理とは、点検や整備を怠った結果、故障が発生してしまい壊れたエンジンを復旧する作業の事で、高額な出費を伴う。
故障は1箇所にとどまらず波及するケースが多いのだ。
人間に置き換えると「体調を崩す」→「仕事をやめる」→「家庭不和」→「離婚」のような縮図で「離婚は高くついたよ」と、過程は無視したネガティブストーリーの最終結論についてコメントしているようなものだ。
「舶用エンジンの修理は高い!」と最終結論で嘆く前に、体調を崩さないための健康管理と早期の処置を心がけたいものだ。

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マリンエンジン、家の庭、ビル、OA機器、人の心・・・ 何事もメンテナンスが必要だ。
「いつもありがとうと嫁さんにプレゼントをする」→「機嫌が良くなる」→「新しい船の購入許可が出る」
何事につけポジティブなストーリーを実践しよう。

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