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◆マリンエンジンのオーバーホールについて考える このページをご覧の方々のなかには、手に入れたい中古艇をお探し中のボートオーナーも多いことだろう。 数社の広告の中から同型艇を探し、年式、価格、搭載エンジンなどの情報をもとに、条件の良い1艇を厳選する作業は大変だと言いつつも楽しいものだ。 中古艇情報で『平成15年にエンジンオーバーホール済み!』なんてフレーズを見るとかなりの勢いで思いがかたむく。 年式が1〜2年古くても、価格が少々高くてもエンジンが命のプレジャーボートだからオーバーホール済みの船を購入するのが得策と判断したとしよう。 ところが購入後、わずかな期間で数々のエンジントラブルに巻き込まれ、現状渡しの契約書にサインをした以上、クレーム保証も効かず「こんなことなら年式の新しい艇にしておけばよかった」なんて経験をお持ちの方もおられることだろう。 今回はエンジンのオーバーホールについて考えてみる。 Overhaulを英和辞典で引くと「精密に検査をする」とあり、機械だけでなく健康の精密検査にも用いられる単語である。 マリンエンジンにあてはめて考えてみるとはっきりとした定義はないが、筆者の解釈では「分解整備」、直訳を踏まえると「精密な分解を伴う整備」あたりが妥当な意味合いと考える。 分解はしたものの不良箇所を修理せず、検査までにとどめた場合はInspectionが適切で、オーバーホール済みと明記できるのは細部まで分解、点検を実施し、点検の結果発見された不良な箇所を整備して、はじめて許される表示ではないだろうか。 それではマリンエンジンのオーバーホール対象となる箇所を解説しよう。 ■エンジンショートブロックのオーバーホール エンジンの出力をたたきだすピストン&シリンダー、シリンダーヘッド関連の整備でエンジンのベースとも言える箇所の整備。 ピストンが燃焼室の吸入空気を圧縮する圧力、すなわちコンプレッションをどこまで新品エンジンと同等まで回復させるかがテーマとなる。 磨耗や傷のあるシリンダーを交換、若しくはボーリングで復旧し、ピストンリングも磨耗限度を超えている場合や、近々限度に達する場合は新しいパーツに交換する。 シリンダーヘッドはバルブ、バルブシートを研磨、あるいは交換し、バルブガイドも必要に応じて交換を実施。 過去にオーバーヒートなどの古傷がある場合はブロックとの合わせ面を測定し、歪みがあれば平面研磨を実施する。 ノズルスリーブが採用されている機種に関しては、圧縮漏れや清水漏れ防止のため交換しておくのが望ましい。 クランクシャフトは磨耗と曲がりを測定し、必要に応じて研磨やラッピングを実施する。 クランクシャフトメタルとコンロッドメタルもオイルクリアランスを測定し、必要に応じて交換する。 コンプレッションはエンジンの命で、エンジンを開放するしか修理の方法がない。 妥協のない整備が要求される。 ピストンリングの交換のみでオーバーホールと呼ぶのはもってのほかとご理解いただきたい。
■冷却系統のオーバーホール 海水ポンプ、清水ポンプ、ヒートエクスチェンジャー、オイルクーラー、ギアーオイルクーラー、アフタークーター(インタークーラー)ミキシングエルボウ、サーモスタット及び各海水、清水の通り道がオーバーホールの対象となる。 海水ポンプはインペラーの交換だけではなくシャフトシール、ベアリング、必要に応じてインペラーカバーまで交換を実施してはじめてオーバーホールと呼ぼう。 清水ポンプも同等な整備が必要だ。 各クーラー関係は全分解が鉄則だ。 コアーをケミカル洗浄し、ハウジングに腐食があれば交換する。 個々のパーツは組立完了時に水圧テストを実施し、漏れのないことを確認する。 運良く潮でふさがっていたピンホールがクリーニングにより貫通する可能性があるからだ。 ミキシングエルボウは必ず錆びているので清掃を行い、錆損が酷い場合や割れが発見された場合は潔く交換する。 サーモスタットは長い目でみた消耗品につき保安上交換をお勧めする。 海水が通過する冷却系統は整備を怠ると、重大トラブルを誘発するのでオーバーホール時にはもれなく確実な整備を実施しよう。
■燃料系統のオーバーホール ディーゼルエンジンの場合は燃料フィードポンプ、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ノズルが、ガソリンエンジンの場合は燃料フィードポンプとキャブレター、もしくはEFIE(FGI)インジェクターが整備箇所となる。 特にディーゼルエンジンの場合は、金額が嵩む箇所ではあるがエンジン出力の明暗を左右する整備重点項目なだけに手抜きは許されない。 噴射ノズルはテストを実施し、噴射圧力の調整と必要に応じてノズルチップの交換を、燃料噴射ポンプはベンチテストを実施し、少なくとも油量の調整か、出来れば分解整備を行ないたい。 整備費用軽減のために燃料装置の整備を割愛するのは得策ではないことを周知いただきたい。 ■エアー系統のオーバーホール ターボチャージャー、アフタークーラー(インタークーラー)バイパスバルブ等が整備対象となる。 アフタークーラーは冷却系等ですでに整備済みとし、ターボチャージャーに解説を絞りこむ。 効率のよい燃焼には適切な空気の量が必要で、空気のチャージ量が十分でないと黒煙と出力不足が同時に発生する。 ターボチャージャーの分解整備はエンジンオーバーホール時の必須項目で、どこのエンジンメーカーでもよほど小型機でない限り、リペアーキットが用意されている。 キットの交換は無条件で行なうが、この作業はオイル漏れの防止対策でしかない。 肝心の過給圧は、タービンブレードとタービンハウジングのクリアランスによって決定され、このクリアランスは経年変化で必ず広くなる箇所だ。 燃料系統と同様、金額のかさむ箇所ではあるがエンジン出力に大きな影響を与えるため特に入念な点検と整備が必要だ。 ■潤滑系統のオーバーホール オイルポンプ、プレッシャーレギュレートバルブ、リリーフバルブ、オイルジェット、サクションパイプが点検、整備項目となる。 油圧系統のトラブルは比較的少ないものの、分解時にしか点検できない箇所が多く、オーバーホール時には必ず検査を実施する。 特にサクションパイプの継ぎ目は、長年の振動や衝撃で亀裂が発生しているケースがあるため、カラーチェックによる探傷を入念に実施する。 「おそらく大丈夫」ではなく「不良箇所があるにちがいない」の観点で検査は実施したい。 クランクシャフトのフロントオイルシールとリアーオイルシールは無条件で交換を実施する。 特にリアーシールは船内での作業が困難なため、修理業者とオーナーのお互いのために交換しておこう。 ■電気系統 スターターモーター、オルタネーター、各モニタリングセンサー、リレー等が点検項目で、運転時間によりスターター、オルタネーターはブラシやベアリングの交換を実施する。 ICレギュレーターや内部点検の不可能なマグネットスイッチは基本的にテスト時点でOKであれば再使用となるが、経験的にトラブルの発生率が高いと判断するパーツに関しては保安上交換作業を実施する。 ■ベンチテスト 費用のかさむ作業ではあるが、オーバーホール完工時には是非ともベンチテスト(陸上試運転)を実施したい。 ベンチテストとはエンジンを船に搭載した状態を陸上で再現するテストを言い、エンジン出力をはじめ油温、水温、排気温度、油圧、過給圧、燃料消費量などのあらゆるデーターが収集できる。 整備後の初期トラブルはベンチテストの時点で発見されるため、船に積み込んでからの初期トラブルは一切なく、完成度の高さを一気に上げる。 直近のベンチテストデーター付きエンジン搭載の中古艇にめぐり合った場合は間違いなく買いといえるだろう。
以上が正しいエンジンオーバーホールの全貌で作業明細書、交換部品明細書、ベンチテスト成績表がセットされていれば完璧だ。 オーバーホール時にすべての部品を交換すると新品エンジンと同等になるが、価格は新品エンジンの3倍近い整備代金になってしまう。 交換部品の決定は『次回の整備まで安全に使用できるか』を判断基準に、的を絞って厳選する。 「冷却系統のオーバーホールは昨年実施済み」とか、「先月海水ポンプを交換したばかり」のように、直近の整備暦が明らかな場合には重複作業を避け、オーバーホール価格を調整しよう。
どのエンジン機種にも必ず弱点があり、オーバーホール時には特に弱点のチェックと対策が必要となるため、同型機の整備経験が豊富な整備士に依頼されることをお勧めする。 『エンジンは全部整備済みです』の一言を鵜呑みにせず、全部の中身をボートオーナーが勉強し、理解度を上げておけば修理にまつわるトラブルの多くは解消できるはずだ。 これからのオフシーズンは来シーズンに向けてのオーバーホールシーズンであることを付け加えておこう。 ※ミズノマリンさんでは定期的にマリンディーゼルエンジンのメンテナンス講習会を行っているようです。 興味のある方は、下記のURLアドレスから詳細をご覧いただけます。 (株)ミズノマリン http://www.mizuno-marine.co.jp/
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