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                            ヒューマンエラーの防止
     2006年 9月 26日
ミズノマリン 水野 茂
この記事は2005年8月、ボート月刊誌に掲載された情報です。

●「ヒューマンエラーの防止」
以前ANAが主催する『ヒューマンエラーセミナー』とやらに参加してきた。
整備業界のなかでも最も厳しいとされる「航空法」に基づく飛行機やヘリコプターの整備を行なうには高い技術力を経験が必要だ。
チェックにチェックを重ね、規定の運転時間に達すると保安上無条件に部品を交換し、限りなく安全を追及するのが航空機の業界だ。
しかしそんな業界でさえエラーは発生する。
人間が整備をし、人間が運行する以上やはりエラーは発生してしまうのだ。
そんなエラーをいかに限りなくゼロに近づけるか、万が一トラブルが発生した場合、いかにして再発を防止するかがセミナーの内容だ。

◆一番効果的なヒューマンエラーの防止方法
たとえば会社員25歳のAさんが自動車で衝突事故を起こした実例を紹介しよう。

雨降りの月曜日の朝、見通しの悪い曲がり道で停車中の車に追突してしまった事故だ。
この事故が発生するまでに以下のような経緯があった。

【1】前日同僚と夜遅くまで居酒屋で酒を飲んでいた。
【2】遅刻癖のあるAさんは上司から「次回遅刻したら出世はないと思え」と注意されていた。
【3】目覚まし時計の調子が以前からあまりよくなかった。
【4】起床時間が予定より30分遅れてしまった。
【5】渋滞していたのでいつもと違うカーブの多い抜け道を利用した。
【6】自動車のタイヤが交換の時期であった。
【7】雨でコーナーミラーがよく見えなかった。
【8】停車中の車を発見したが運悪く対向車があり右車線に回避できなかった。
 
まず【1】、【2】、【4】は運転者であるAさん自身の生活習慣や精神的なプレッシャーの問題で、【3】、【6】は機械的な整備不良、【5】、【7】、【8】は事故にいたるまでの環境的な問題だ。
何を改善すれば一番効率よく事故の再発を防止できるかを考える。
 
一般的には「Aさんの生活態度を改め早寝早起きを心がけ、今後自動車を運転するときには細心の注意を払う」といった内容がお手本となる回答だろうが、人間の生活習慣はそう簡単には変わるものではない。
遅刻する人は何時でも遅刻するし、早起きするのはゴルフの日だけ…なんてボートオーナーも多いはずだ。
ビルフィッシュトーナメントの当日、朝まで飲んで「ヒットしたら起こしてくれ」とクルーに告げ一日寝ている船長さんもたくさんおられる。
 
生活指導も必要だが事故の再発防止策としては効果が期待できないのが現状だ。
【5】、【7】、【8】の環境は自分の意思ではどうすることも出来ない要因だ。
航海中に波高が急に高くなったり、大雨や霧に遭遇することもあるが環境には逆らうことは出来ない。
今回のケースの場合、【3】と【6】の機械的な整備不良を解決するのが一番効果的なエラーの防止方法といえるのだ。
特に費用面を考慮すると【6】のタイヤ交換より【3】の目覚まし時計の交換と複数の設置が特効性のある方法だ。

◆マリンシーンでのリスクヘッジ
ここでマリンエンジンの故障事故のケースにあてはめて考えてみよう。
会社社長Aさん50歳所有のプレジャーボート搭載エンジン500馬力が海水インペラーの損傷で焼け付き事故を起こし漂流、座礁した。
エンジン及び船体の修理代金が救難援助費用と合わせて1000万円かかった。
この事故が発生するまでに以下のような経緯があった。

【1】出港前日クルーと夜遅くまでクラブで酒を飲んでいた。
【2】同行する仲間の船のオーナーから遅刻したら置いていくと釘をさされていた。
【3】起床時間が予定より30分遅れてしまった。
【4】船底整備を怠っていたので十分な船速が出なかった。
【5】仲間の船に追い着こうと最高回転で航行を続けた。
【6】海水インペラーをしばらく交換していなかった。
【7】特に暑い日で海水温度が30℃近くに達していた。
【8】この日にかぎって定員一杯の15名と全員の重い荷物を積んで航行した。

エンジンが焼け付きに至るまでには必ずいくつかの要因がある。
まず【1】、【2】、【3】はAさんの生活習慣と精神的なプレッシャーの問題でエラー防止策としては改善が難しい。
クラブ好きのオーナーが出港前の前夜祭を今さらやめるとは考え難い。
【4】と【6】は整備不良。【5】、【7】、【8】は船をとりまく環境で、同条件で航行したからといって通常焼け付きは発生しない設計だ。
 
今回のケースの場合、【4】と【6】の整備不良を解決するのが一番効果的なエラーの防止方法でインペラー交換と船底掃除が整備の方法だ。
自分でやれば10万円、プロに任せても30万程度の予算で1000万円の事故は容易に回避出来たのだ。
 
事故発生に至るまでの要因をチェーン(鎖の輪)と呼び、どのチェーンを前もって切れば事故が発生しないで済むかといった理論がヒューマンエラーの防止方法で、マリンエンジンの場合はインペラーやVベルト、各種フィルターなどの定期的な交換がそれにあたるのだ。
 
1フライト前ごとの点検と毎晩の終業点検、短いインターバルで設定された部品交換とサービスマンの教育、機長と副操縦士の二重チェック運行、技術の粋を尽くした管制を行なってもエラーは発生するのに、乗りっぱなしのマリンエンジンがノントラブルで航行出来るわけがないのだ。
船長兼機関長の小型船舶オーナーはエラーチェーンを事前に予測し、二重、三重にヘッジをしておいた上で出港前の前夜祭は盛り上がっていただきたいものだ。


航空機の整備は整備業界のなかで最も高い技術が要求される。

旅客機が墜落すると多くの命を失うばかりか会社の存続が危うくなる

メカニックの教育と育成には努力を惜しまない。

整備業界の10年後を考えると若手メカニックの養成は必須項目だ。

ヒューマンエラーを限りなくゼロに近づけるマニュアルが航空業界では確立されており、航空需要が増えるなか、事故発生件数は減少傾向にある。

事故の防止は可能性のあるリスクを前もってヘッジしておく予防整備が基本だ。

マリンエンジンの場合も同様、定期交換部品の交換からはじめよう。

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