前のページに戻る


                            中古艇エンジンのトラブル実例
     2006年 9月 26日
ミズノマリン 水野 茂
この記事は2002年1月、ボート月刊誌に掲載された情報です。

中古艇エンジンのトラブル実例
今回のエンジントラブルの実例はエンジンが始動しない、回転が上がらないの修理方法を解説するのではなく取り引きに関わるトラブルを検証しよう。
ボートの遊びは粋でお洒落にいきたいものだ。
しかし現実は理想とはほど遠く「買ってすぐに故障した」とか「修理したのに治っていない」などのトラブルは後をたたないどころか船の老朽化も相まってますます増える一方である。
売り方、買い方、預かり方の三位一体が船遊びを快適なものにするのではないでしょうか。

真新しいボールペンが大切な商談中に突然書けなくなったとしよう。
商店街の福引きでもらったものならあきらめもつくが、100円で購入したものなら新しいものと交換してほしくなる。
金額の大小に関わらず、自分で購入したものがトラブると気分の悪いものである。
このトラブルをあなたならどう解決しますか?
 
面倒臭いからあきらめる人、ペン先をライターであぶって修理を試みる人、メーカーにクレームをつける人、購入した店に交換を求める人、返金を求める人。
いずれかの方法で解決したとしても大勢に影響はなく、まちがってもボールペン業界に対する不信感が残ることはない。
 
しかし対象となる商品がボートだとどうだろう。
あきらめるわけにはいかないし自分で修理するにも限界がある。
新艇ならメーカークレームもあるが、こと中古艇の売買やエンジン修理に関するトラブルとなると、中途半端な金額で収まらないだけにそれぞれの立場の言い分がある。
完成度の低い高額商品は見積もり、契約段階の取り決めを明確にし、権利と義務をお互いが納得しあう必要がある。

中古艇の販売は近頃では「現状渡し」というケースがよくある。
ここで言う「現状」の意味合いを売り手と買い手が同じラインで捉えていれば問題はないのだが、噛み合っていないからトラブルが生じる。
 
売り方の言う現状とは故障箇所も含めての現状を意味し、買い手は商品である以上、当然まともに使える状態での現状と捉えていたとしよう。
スタート時点での考え方の相違は船が古けりゃ古いほど、相場より安けりゃ安いほど顕著に溝が深くなる。
買ってもらう以上そこそこ信頼のおける状態での納艇が常識的ではあるが、薄口銭の取り引きではそこまでできる余裕がないのも現状だ。
 
船価のデフレはお互いの立場を不利にし、常識と非常識の境目が大きくなり、当然のことながらトラブルへと発展する。
これらのトラブルをさけるために、優良販売会社ではすでに導入済である中古艇価格修理価格の、段階見積りの実施を推奨している。
整備済納艇額が500万円であれば、全くの現状は450万円とか、半年のクレーム保証を付けるのなら整備済価格の10%アップなど、同じ商品でもどの状態で受け取るかを予算に合わせて買い手が選択でき、契約書にしっかりと記載すれば安い理由も明確となる。
 
メンテナンスや修理に関しても同じことが言える。
とりあえず走れる状態までの修理と、安心して乗れる内容の整備は費やす時間も価格も根本的に違う。
それをエンジン整備一式のような見積りや請求をぶしつけに送りつけると、感覚の相違どころか誤解が生じない訳がない。
 
売り方の責任は中古艇、中古エンジンの程度を見極め、その商品に応じた説明をオーナーに隠すことなく書面で交わすことではないだろうか。
 
エンジン修理の業界でよくあるもめごとを紹介する。
10年使用した右舷機のオーバーヒート修理の依頼があった。
予算がないのでなるべく安くとの希望だった。
熱交換器を点検したところ、10年間かけて堆積した潮が冷却効率を低下させていることが判明。
早速、分解整備を実施し試運転を行なったところ正常水温に落ち着いた。
整備代金を支払ったオーナーが上機嫌で出航したものの、3航海目に右舷機が焼け付いてしまった。
海水インペラーの損傷による冷却海水の汲み上げ停止が原因だった。
 
当然オーナーは修理業者を呼びつけクレームを申し立てる。
業者の言い分は「低予算の修理で実際不良であった熱交換器を清掃し現に立会い試運転の結果、当初のオーバーヒートは解消したのだから今回の事故は別件であり、エンジンが焼け付く前に警報アラームも鳴ったはずだ」と主張。
一方オーナーの言い分は「私はエンジンのことがよくわからないからオーバーヒートの修理をあなたに依頼した。
安く完工してほしいとは言ったがすぐに壊れる修理を依頼した覚えはない。
一瞬の出来事でアラームが鳴ったかどうか記憶にない」。
海水インペラー1個でおさまる修理ならどちらが負担するにせよ和解は成立するはずだが、100万円を超える修理となると話し合いはこじれるばかりだ。
 
今回のトラブルの原因は、主原因だった熱交換器以外に、首の皮1枚でつながっていた海水インペラーの劣化を予想出来なかったことで、整備業者が狭い視野でしかトラブルシュートを行なっていなかったことにあると言える。
 
一旦オーバーヒートの修理を依頼された以上、海水ポンプ、熱交換器、アフタークーラー、オイルクーラーの整備見積りを予算の有る無しに関わらず提出し、現状の報告と必要な整備内容及び金額をもとに、今後の作業の進め方を協議する必要があった。

エンジン2機掛けの場合はもう1機も同時期に同トラブルが発生する可能性が高いので、あわせて検討しておきたいものだ。
どうしても予算的に一括作業が困難な場合は優先順位をつけて段階的に整備するなどの提案をし、同種の故障が短期間で再発しないような心遣いが必要となる。
「作業を実施してみないと見積もりは出ません」では恐ろしくて依頼はできない。
仮見積りでも予想見積りでも見積もりを出すための見積もりでも結構なので、お互いの心がまえを確認しあう着工前の何らかのアクションが必要だ。
 
○○修理一式のようなあやふやな表現は使用せず部品代と工賃は明確に分類し、部分的にでも受注できるわかりやすい内容で記載するべきだろう。
要するに売り手側は中古艇にしろ修理作業にしろ商品の知識をしっかり持ち、コンディションを把握し商談時にわかりやすく説明しておけばほとんどのトラブルは回避できるのではないだろうか。

「安かろう悪かろうは通用しませんで」と値切りを美徳とするオーナーも、「大金払ってこの程度?」と高く買ったことが自慢のオーナーも、購入した船や整備したエンジンに対し何らかの不満をお持ちのはずだ。
 
高く売りたい側と安く買いたい側が商談を重ねる取り引きだけに、白熱した攻めぎあいとなる。
最後の血の1滴まで絞り取る商談をしてしまうと、売り手の体力は無くなりサービスや品質に跳ね返ってくる。
 
自動販売機で買う缶ビールと一流レストランで飲むビール、ビールに変わりはないけれど付加価値は違う。
良い物を安く買うのが買い物上手と呼ばれるが、品質を向上するためには、高額なコストがかかる中古艇やエンジン修理の場合、安さを追求し過ぎた場合のリスクは自分で背負うことになる。
 
エンジン1基の新価より安い価格で中古艇を購入したとしよう。
不運にもそのエンジンが全損に近い故障に見舞われた。
最近よくある話しだが修理見積りを受け取られた瞬間「船ごと買える金額だ」とクレームがくる。
この現象を説明すると新価1000万円、内エンジン価格350万円の船を12年落ちで300万円で購入、その年の夏にドカンと壊れて、エンジンの積み替え工事を目いっぱい勉強して300万円といった具合である。
 
購入して半年足らずで故障に遭遇したオーナーは、たまりかねて販売会社にねじ込む。
270万円で仕入れた船を300万円で売却した販売会社はどうすることも出来ず、おもむろに契約書を取り出し「現状渡し」の旨をオーナーに伝える。
「いくら何でも年収の半分を叩いて数回乗っただけで修理代が300万円! 私の生活どうなんの?」とトラブルはつづく。
 
これがもし新価1億円の船だったらどうだろう。廃船するか販売会社が倒産するかの話しに発展してしまう。
エンジンに発生する全損事故の8割までは安価な保守整備で防げる。
契約時に納艇整備の必要性を、買い手が充分に理解し、15万円の追加整備費用を捻出しておれば・・ と後悔しても後の祭りである。
 
どんな形にしても一旦所有した船はオーナー責任において管理する心構えが必要だ。
管理には自己管理と委託管理があるが、どちらもせずに故障したときだけ責任の所在を自分以外に転嫁するのはフェアーではない。
金は出すけど口は出さん、金もだすけど口も出す、金は出さんけど口は出す、あなたはどのタイプでしょうか?
 
1フィートでも大きな船に乗りたいのは船乗りの性。
しかし年式の古い整備状態の悪い船を、ありったけの予算で購入するのは危険だ。
「エンジンをオーバーホールしてから乗る」くらいの予算組でない限り、無理な購入計画は断念するべきだ。
 
整備に関わる資金計画もしっかり立てる必要がる。故障防止のための整備と故障発生後の修理とでは、後者のほうがはるかに高額な費用が発生する。
 
自動車のエンジンと違い高回転、高負荷、海水冷却のマリンエンジンは整備しないと必ずと言っていいほど壊れることを認識し、予防整備、計画整備を船長責任において実施しよう。
後のトラブルを避けるためにも、整備の依頼内容や中古艇契約の内容は、些細な事でも契約書の特記事項や確定見積等の書面で残しておきたいものだ。

賠償責任、搭乗者傷害は必須となるが船体、エンジン、ドライブ、船尾廻りの事故も担保される内容の保険を契約しておきたいものだ。
高額商品の修理代金は当然のことながら高額で、いざと言う時現金での支払いが可能なら良いが、行き詰まることが予想されるのならグレードの高い保険に加入するか、掛け捨てがもったいないと思われるのなら掛け金相当額を強い意志で貯蓄していただきたい。
 
無理な船は所有せず資金の余裕を心掛け、船の売買にしてもエンジン整備、修理にしても信頼がおけて肌の合う業者を見つけ、良い関係を維持することがトラブルにまきこまれない秘訣ではないだろうか。

マリーナ側のスタンスにはいくつかの種類がある。
船舶を保管するための場所だけを提供する不動産賃貸業的な位置付けのマリーナ。
検査、修理、整備などをトータル的に自社で引き受けるマリーナ。
依頼があれば自社整備も引き受けるが、オーナー手配の修理業者も自由に出入り出来るマリーナがあり、経営母体は官、民、三セクによりその毛色が異なる。

ボートオーナーは利便性や予算に応じて係留場所を決定するわけだが、契約時にどの位置付けにあるのかをオーナーにしっかり伝えておく必要があると思う。
メンテナンスシステム完備の広告でお客様を呼び込み、フタをあければオイル交換もままならないようであれば、広告に偽りありと言われても仕方がない。
出来ることと出来ないことを明確にしておかないと、オーナーの期待を裏切ることになりトラブルへと発展する。
 
季節商売である以上繁忙期にあわせたメンテナンススタッフを複数名雇用するのは経営的に困難で、実際納期面や技術面でのクレームをよく耳にする。
 
メンテナンス完備の看板を掲げる限りは自社整備で追いつかない部分を補える、信頼のおける外注業者のネットワークを確立しておくべきであろう。
それと同時にお客様の要望を的確に捉え、相応しい業者を手配し、依頼内容が変わることなく伝えることができるスタッフの育成が、マリーナ運営のキーワードになるのではないだろうか。

「説明したつもりが伝わっていない」、「依頼したはずなのになされていない」、「クレームのつもりが有償だった」、「そんなに高額とは思わなかった」、「そんな話しは初耳だ」、「払ってください、払えません」煩わしい揉め事に時間を費やすと、ご自分のお仕事にも支障をきたす。
船で楽しく遊ぶためにも、もっと仲間を増やすためにも売り手、買い手、預かり手が報告、連絡、相談を密にし、信頼のおける紳士的な取り引きを心がけ、実践していこうではありませんか。

前のページに戻る